月別アーカイブ: 3月 2018

4月の無料相談会のお知らせ

<4月7日(土) 10時~17時>

<4月11日(水) 17時~20時>

 

場所:立川フォートレス法律事務所

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無罪事例報告(覚せい剤自己使用事件)

平成29年10月31日、東京地裁立川支部で、覚せい剤取締法違反(自己使用)事件について無罪判決を獲得しました。
今回は、この事例について報告します。

 

1 事案の概要

 

本件は、平成27年8月上旬ころから同月22日までの間に、東京都内又はその周辺において、覚せい剤若干量を自己の身体に摂取し使用した、とされた事案です。
依頼者が別件事件で逮捕された日に、任意採尿手続が実施され、その際に提出した液体を鑑定した結果、覚せい剤成分が検出されました。その旨の鑑定書が作成されています。依頼者は、自己使用の事実について否認していました。

 

2 審理の流れ

 

(1)弁護側の主張

弁護側は、依頼者が提出した液体と鑑定資料とされた液体は同一ではなく、別人の尿とすり替えられた、あるいは取り違えられた可能性があるなどと主張し、尿の鑑定書は自己使用の証拠とはならないとして争いました。

 

(2)分量の差の争点化

上記の主張を裏付ける事実として、任意採尿手続時の液体の量と、鑑定資料とされた液体の量に、分量の差がある、ということを最終弁論で主張しました。
任意採尿手続では、被疑者に紙コップに尿をさせて、それを採尿容器に移し替えます。その採尿容器を科捜研に持ち込んで鑑定するのですが、任意採尿手続時の採尿容器の写真が証拠として提出されており、その写真を見ると、容器の10mlを示す線のすぐ下まで液体が入っている様子が映っていました。
一方で、鑑定書には、鑑定資料は「約5ml」の液体であると記載されていました。
つまり、任意採尿手続から鑑定が実施されるまでの間に、容器内の液体が半分近くまで減ったことになります。弁護側は、分量の差がすり替え等の可能性を端的に示す証拠であると主張しました。
そうしたところ、検察官から、分量の差について補充捜査の必要があると申し出があり、さらに審理が継続することとなりました。

 

3 分量の差についての攻防

 

(1)検察官の主張

検察官は、分量の差の説明として、「本件尿は、鑑定を開始した際、本件採尿容器から一部漏れ出て本件採尿容器を入れていたチャック付ビニール袋内にこぼれていた」と主張しました。もっとも、当時使用されていた採尿容器は、いわゆるねじ蓋式のもの(ペットボトルの蓋のような構造です)で、きちんと締めていればおよそ漏れることは考えにくいものです。しかも、覚せい剤使用を立証するための大事な証拠である尿が、鑑定するまでの間にこぼれ出てしまう、という事態はにわかに信じがたいと思いました。

 

(2)鑑定メモ

検察官は、こぼれていたことを立証する証拠として、鑑定メモを請求しました。そこには、確かに「こぼれている」と記載がありました。
鑑定メモは、リングノートを横線で区切った手製のもので、左ページに鑑定実施日、被疑者名、色、量、pH、鑑定結果などが記載され、右ページにその他の情報が記載され、「こぼれている」は右ページに記載されていました。
鑑定メモの原本を確認すると、鉛筆で書かれており、右ページには消して書き直した跡がありました。「こぼれている」は後から書き加えたのでは、との疑念を持ちました。

 

(3)電話聴取書

検察官からは、鑑定人とのやりとりを記載した電話聴取書も開示されました。そこには、「この尿量は約5mlだと記載がありますが、嘱託の受理時の量がもっと多いことはなかったかと尋ねられました。この当時の採尿容器を使用していたときには、たまに容器から尿が漏れ、容器を入れているチャック付ビニール袋まで漏れ出すこともあったので、もしかしたら、●●(依頼者名)の尿についても漏れがあったのかもしれません」と記載がありました。
しかし、鑑定メモを見ながら答えたのだとすると、「メモに『こぼれている』と書かれていますので、尿が漏れていたのだと思います」といった回答をするはずです。検察官への回答内容は不自然だと感じました。

 

(4)鑑定人再尋問

分量の差が争点化される前に、鑑定人は1度尋問されていましたが、再度鑑定人を証人として尋問することとなりました。その際の証言の問題点については、後述の判決内容をご参照ください。

 

4 判決(東京地裁立川支部平成29年10月31日判決)

 

東京地裁立川支部刑事第3部(佐藤康行裁判官)は、鑑定メモとそれに基づく鑑定人の証言の信用性を否定し、無罪としました(控訴なく確定)。その理由の概要は以下のとおりです。

 

(1)任意採尿時の液体と鑑定資料との同一性についての判断手法

まず、採尿時の液体の保管・運搬状況等を検討し、「被告人が警察署で提出した液体と本件鑑定の資料とが同一である可能性が高いといえるが、これまで検討してきた各事情にもかかわらず、本件では、前記のとおり、両者の分量に些細でない齟齬が生じているため、この点を踏まえても同一性があることを合理的に説明できない限り、たとえば、本件封緘紙が剥がれているのに鑑定嘱託の受付がされたり、鑑定資料の取扱や鑑定の方法が通常通りでなかった可能性が生じることとなり、両者の同一性に合理的な疑いが生じることになると考えられる」と指摘しました。なお、封緘紙というのは、採尿容器の蓋の上に貼るシール様のもので、被疑者に署名指印をさせて貼り、そのままの状態で鑑定に持ち込む運用になっています。

 

(2)鑑定メモとそれに基づく鑑定人証言の信用性

以下のとおり信用性に重大な問題があるとされました。

 

ア 内容の不自然・不合理さ

鑑定人は、検察官から問い合わせをうけたときに「こぼれている」の記載を鉛筆で何度も丸で囲んでしまい、読みにくくなったので丸とともに「こぼれている」の記載を消して元のとおり書き直したと供述しました。この供述について以下の不自然さが指摘されました。

争点に関する非常に重要な証拠に、書き込みをしたり、記載を消したりすることは、あまりに軽率過ぎる行動
検察官から証言を求められたとき、備忘メモ(右ページ部分)は裁判の証拠として提出することはできないと思い、メモがなければ具体的な証言はできないから、一般的な形の証言しかできないと検察官に回答した(電話聴取書の記載)というが、備忘メモを証拠として提出できないと思ったという供述は不自然

 

イ 客観的証拠との不整合

鑑定人は、「こぼれている」との記載や丸を消した際、その上に記載されていた一文の一部も消して書き直したと供述しました。この供述と鑑定メモの記載の不整合について以下の点が指摘されました。

備忘メモをみると、「こぼれている」の上ではない部分まで消された形跡が残っているのは不自然
元々記載されていたものと思われる文字と書き直された文字とが数文字分ずれている

 

ウ 内容物が漏れていたことが証拠上具体的にうかがわれない

封緘された時点では蓋は締められており、特にゆるいようにも見えない(本人も締まっていたと述べている)
科捜研に持ち込んだ警察官は液体が漏れているのは見ていないし、科捜研職員からもそのような指摘はなかったと述べている
科捜研で保管されてから鑑定に持ち出すまでに液漏れが生じる可能性は低い

 

(3)結論

分量の齟齬について漏れによるものと認めることはできず、齟齬が生じた原因が明らかでないため、「鑑定資料の取扱や鑑定方法が通常のとおり適切に行われていなかったなどの可能性が排斥できないこととなり、両者が同一のものと認めるには足りない」。
したがって、犯罪の立証がなく、無罪とされました。

 

5 判決を受けての実感

 

今回、液体の分量の差には、依頼者にも記録を差し入れて見てもらい、検討を進める中で気付きました。記録を丹念に検討することの重要性を改めて感じました。
また、鑑定メモが鉛筆で書かれていることや、一度消した跡があることは、メモの写しを見ただけではわかりませんでした。証拠の原本に当たることの重要性も再確認できた事例でした。
捜査手続や鑑定手続が争われるケースでは、しばしば、弁護側に弾劾の材料がないケースがあります。警察官が証人として出廷し、「適正に実施しました」と証言するわけですが、それを事後的に検証する資料がないことも多く、警察官の証言の信用性を弾劾するのには苦慮します。
今回は、分量の差という無視できない矛盾があったこと、不自然な鑑定メモという弾劾の材料があったこと、などの事情があり、無罪という結果が出ました。ですが、鑑定人の証言からすると、そもそも鑑定メモを証拠として出すつもりはなかったということです。鑑定メモが出てこなければ、分量の差についてもうやむやに終わってしまったかもしれません。
鑑定は科学的であるべきです。事後的検証に耐えうるものでなければなりません。鑑定のプロセス、生じた出来事、鑑定人の所見などは、記録化され、事後的検証のためオープンにされる必要があります。今回の事件を受けて、鑑定経過の透明化の必要性も痛感しました。
今後も、捜査手続や鑑定手続に疑義が生じている場合には、関係する資料をすべて提出するよう求めていくことが重要であると感じました。

以上

弁護士 贄田 健二郎