コラム

依存症回復支援施設アルバ

先日、「アルバ」という依存症回復支援施設の見学に行ってきました。株式会社ヒューマンアルバ(http://human-alba.com/)が運営している施設です。NPOなどではなく株式会社という形態をとっているのが特徴的ですね。

 依存症と一口にいってもアルコールや覚せい剤依存というような物質系の依存、ギャンブルや買い物依存といった非物質系の依存などと色々ありますが、アルバでは基本的には種類に関係なく広く依存症について扱っています。ただし、31年1月現在では諸事情により、依存の対象自体が犯罪行為となる場合(典型的には覚せい剤使用)については受け入れをしていないとのことでした。

 提供サービスについて詳しくはHPなどをご覧いただければと思いますが、依存症回復のための専門的プログラムはもちろん、住居支援や社会復帰のための教育・就労支援も行っていました。一つ大きな特徴であると感じたのは、住居支援です。依存症回復施設で多いパターンは寮を提供するというものですが、アルバでは住居を借りる際の連帯保証人になる、アルバが住居を借り上げるなどの方法により、施設の近くに単身生活できる場所を確保するそうです。集団生活に強いストレスを感じる方もいらっしゃるので、単身生活を前提とした選択があるのは大きいです。

 刑事、民事、家事といった事件の種類に関係なく依存症に悩む方にお会いする機会は多いので、選択肢の一つとして是非お勧めしたいと思いました。

弁護士 船戸 暖

弁護人が取調べに立ち会う権利について

先日、「EU諸国における取調べの可視化と弁護人の立会い」というセミナーに参加してきました。

 取調べへの弁護人の立ち合いについては、最近、日産のカルロス・ゴーン氏が逮捕された事件に関連して、フランスの新聞社などが日本でこれが認められていないことを批判する報道をしたことから話題になっていました。

 

 日本では、逮捕・勾留されている場合はもちろん、そうではない、いわゆる在宅事件の場合でも弁護人が取調べに立ち会うことはできません。これは法律で禁止されているということではなく、警察・検察が絶対に応じないということです。

 

 これに対し、EU加盟国では、国ごとに具体的な仕組みは異なっていますが、EU指令により弁護人の取調べ立会いに関する法律が整備されています。もう少し詳しく説明すると、EU指令が直接定めているのは弁護人の援助を受ける権利を保障する法整備なのですが、先行する欧州人権裁判所の判例により、弁護士の援助を受ける権利には弁護人が取調べに立ち会う権利が含まれると解釈されており、その結果としてEU各国で弁護人が取調べに立ち会う権利が認められるようになったということです。なお、同様の権利はアメリカや、お隣韓国、台湾でも認められています。

 

 日本でも憲法上の権利として弁護人の援助を受ける権利や黙秘権を保障していますが、これまで判例上弁護人が取調べに立ち会う権利が認められたことはありません。弁護士会としても日本政府に繰り返し立法を求めていますが、今のところ実現するに至っていません。

 今の日本の刑事司法の仕組みでは、被疑者を逮捕から20日間以上も拘束することができ、その間ずっと取調べを行うことができます。被疑者には黙秘権が認められていますが、取調べを受けること自体を拒否することはできず、取調べには一人で臨まなければなりません。これで黙秘権を含む被疑者の権利が十分に保障されていると言えるのでしょうか。

 

 ゴーン氏の事件はこのような日本の現状が世界の批判にさらされたという意味で良い機会であったと思います。しかし、現在のところ立法により被疑者に弁護人の取調立会権が実現する見込みはないと言わざるを得ません。EUにおいてもそうだったように、こういうときこそ少数者の権利を守る裁判所の出番だと思います。裁判所が一言、憲法上被疑者には弁護人を取調べに立ち会わせる権利が認められる、と判断してくれれば良いのです。これまでの最高裁判所を見るにあまり期待はできませんが、刑事弁護に携わる弁護士として、今後も取調べに対する弁護人立会権実現に向けた活動を続けていきたいと思います。

 

弁護士 船戸 暖

ゴーン氏の収容先について

ゴーン氏が逮捕・勾留されていることは大きなニュースになっています。

ここでは、逮捕された彼が東京拘置所に収容されていることについて、少しだけ触れたいと思います。

 

現在の日本では、一般的に逮捕された場合は警察署に収容されています。そのような扱いから考えると、例外的な扱いをしているように思われるかもしれません。

でも、外国に目を向けた場合、むしろこの日本の扱いこそ、例外的です。

 

「代用監獄」という言葉があります。

 

逮捕・勾留されている間、捜査官による取り調べが実施されます。警察に収容するということは、取り調べをする側の手元に収容するということを意味します。

いわば「取り調べ放題」ということになってしまいます。

 

これはいかにもおかしいのではないか。

さらに言えば、逮捕・勾留という制度自体、取り調べのための制度ではありません。

それなのに警察署に収容するということはおかしなことであると言わなければなりません。

 

興味を持たれた方は、東京弁護士会のホームページにわかりやすいまとめがありますので、そちらもご覧ください。

代用監獄Q&A

https://www.toben.or.jp/know/iinkai/keiji/qa/

 

弁護士 髙橋 俊彦

吉澤ひとみさんの執行猶予判決について思うこと

先日、元モーニング娘。の吉澤ひとみさんに対する事件の判決が下されました。

懲役2年、執行猶予5年ということです。

この事件の弁護人は私や当事務所の弁護士が担当していません。ですからあくまでも外野として思うところを書きます。

 

ニュースについているコメント欄を読みますと、「軽すぎるのでは?」という声が多いようです。

法律家としては、そういう声に対して真摯に受け止める必要があると思う一方で、「果たしてそうかな?」ということも思ったりします。

 

懲役2年というのは、刑務所に入って懲役刑を2年間務めなければならないという刑罰です。それの執行を猶予するという判決です。つまり執行猶予というのは、定められた期間内に(今回では5年)、また犯罪を犯すようなことがなければ刑務所にいかなくて済むけれども、また犯してしまった場合には、執行猶予は取り消される場合があり、そのときには取り消しの原因となった犯罪について言い渡される刑に加えて、今回の執行猶予分(つまり懲役2年)についても服役をしなければならなくなるという制度です。

執行猶予というのは、何年間猶予するのか、という猶予期間を定めなければなりません。裏を返せば、「また犯罪を犯したら取り消されるかも?」という思いを抱きながら生活しなければならない期間、ということになります。その意味では、猶予期間が長ければ長いほど、重い判決であるという見方になります。

そして法律では最長期間として5年とされています。

つまり、吉澤さんに対する判決は、執行猶予にされる場合にはもっとも重い部類であると、裁判所が考えたということになります。

 

刑罰はどのように考えて決めるのか、というテーマであらためてコラムを書きたいと思っていますので、詳しくはそこに譲りますが、執行猶予にするかどうか、をどう考えるかについて少し書いてみます。

 

刑罰はそもそも「報い」としての側面(応報)と、二度と犯さないための更生(教育)という側面があると言われています。

ですから、執行猶予にするかどうかについても、この両面から考えていくことになります。

 

まさに不幸中の幸いですが、吉澤さんの事件では被害者の方の傷害は重篤なものではなかったようです。亡くなってしまっていた場合に比べて、その報いは重く評価されるべきではないでしょう。

ですから、刑務所に送るほどの報いを与えるまでは必要がないのではないか?という考えが働きます。

 

でも、どうやら飲酒運転をしていたようです。そうであれば、過失による事故であったとしても、その過失は重たいものであると評価されるでしょう。この点は、報いとして重いものを与えるべきではないかという方向で考えられるでしょう。芸能界を引退したということは、社会的に大きな報いを受けたということがいえると考えます。そうであれば、さらに刑罰によって与えるべき報いも多少軽くしてもよい、そう考えることもあるでしょう。

 

では、教育という面ではどうでしょうか。本人がこの事件についてどう思っているのか、ということが重要です。教育を受ける側のレベルがどの程度かによって、教育の内容も変わってくることは普通の教育と変わりがありません。

 

また、周りの環境はどうでしょうか。所属していた芸能事務所の社長が嘆願書のようなものを提出したという報道がありました。そういう再出発に向けた支えがあるかどうか、それも重要なポイントです。

 

 

冒頭にお断りしたとおり、私や当事務所の弁護士は弁護人ではありません。したがって事件の詳しい情報はありません。ただ、報道されている限り、弁護人としては、そのようなことをきちんと法廷に出して裁判所の評価を受けたのではないでしょうか。

 

刑事事件の弁護人の業務は、決して法廷の中だけに限るものではありません。

依頼者である被告人が、どうしたら再出発ができるだろうか、二度と罪を犯さないためにどうしたらよいのだろうか、ということを考え、かつ道筋をつけていくことも重要な仕事です。

もちろん、この観点は「実際に罪を犯してしまった場合」についてであることは当然です。罪を犯していないにも関わらず、被告人とされてしまった場合(えん罪事件)とは違います。

 

我々、立川フォートレス法律事務所の弁護士は皆、このような刑事事件に情熱を傾けてきましたし、今後もそのつもりです。

 

どうぞお気軽にご相談いただければと思います。

 

弁護士 髙橋 俊彦

顧問弁護士の仕事とは

弁護士が日常的にご相談に対応できます

日常的に生じる問題について気軽に相談していただける関係を持った弁護士をそばに置きたい、というご要望に応じるための方法が、顧問弁護士です。

会社やお店を経営されている場合、弁護士に相談しようと思われることはどういうことがあるでしょうか。

わざわざ弁護士に相談するということになると、費用もかかるし、それなりの案件じゃないともったいないんじゃないか等とお考えになるかもしれません。

一から会社のことを説明するのも大変だし、手間がかかる等とお考えになるかもしれません。

そういったハードルをなくすために顧問弁護士という存在があるとご理解いただければと存じます。

我々弁護士が相談に対応する際、前提として「どういう仕事をしている会社なんだろうか」、「相談をされる方の人となりはどういうものなのだろうか」、という情報を気にします。問題解決のためにどういう方法をとるべきかを模索する際に、このような情報が有益だからです。

相談される方も、問題の前提としてこのような情報が関係しますから、我々弁護士に理解してもらいたいと思われることが多いように思います。その点を理解することが、対応をより的確に相談できるとお考えになるでしょう。

そのような関係性を弁護士との間で、あらかじめ築いておくことにより、より的確に、より気軽に相談をすることができるようになるのです。

 

顧問弁護士を雇うためにはどうすればよいのか

まず、顧問契約を結んでいただきます。

顧問契約の内容は、毎月一定額をお支払いいただく代わりに、日常的な問題についての相談に相談料なしで対応することが基本です。もし、案件をご依頼いただく場合には、顧問関係のない依頼者の方に比べて弁護士費用を安価に設定することもいたします。

当事務所では顧問料について次のとおりお願いしています。

 法人・個人事業者の場合  月額5万円から(消費税込54,000円)

 個人の場合        応相談(法人・個人事業者に比べ低額)

なお、顧問料を実際に定める場合には、業務量や規模に応じご相談に応じており、基準より減額させていただくこともあります。

 

顧問弁護士は何をしてくれるのか

基本は法律問題についての相談です。もちろん「法律問題かどうか」について判断がつかない場合でも、ご相談ください。その上で弁護士が回答できることかどうかも含め、対応させていただきます。

また、契約書のチェックも必要に応じていたします。

具体的な案件をご依頼いただく場合には顧問料とは別に費用をいただきますが、顧問契約を結んでいない方に比べ、一定額の減額をいたします。

 

最後に

弁護士をしておりますと、「もっと早い段階で相談していただければこれほどの問題にならなかっただろう」と思うことが多いです。

早い段階で相談できなかったのは、いろいろな原因があるでしょうが、その多くは、「身近に気軽に相談できる弁護士がいない」という点にあるのではないかと私どもは考えています。

我々は、皆さんの身近な弁護士でありたいと願っています。

気軽に相談できる存在でありたいと願っています。

どうぞ、お気軽にお声がけください。

 

なお、立川法人会に所属されている法人・事業者の方については、「6ヶ月間顧問料無料」で顧問契約を結ぶサービスを開始いたしました。

 

「実践!意思決定支援−本人主体の権利擁護を目指して−」に参加して

本年2月2日、弁護士会多摩支部主催のイベント「実践!意思決定支援−本人主体の権利擁護を目指して−」に参加してまいりました。

 

感想としては、他人の意思決定をきちんと聞き、そしてそれを推測していくことの難しさ、大切さ、でした。シンポのテーマとしては成年後見等の業務の関連です。

ですが、この「難しさ」と「大切さ」は、他の事件でも共通するということを強く感じました。

そもそも人が人に気持ちや考えを伝えることは難しいものです。

まして、弁護士に相談しようとお考えになる、そんな局面で、正しく自分の気持ちをお伝えいただくのは、なかなか難しいと思われるのです。

もちろん、正しく伝えていただいているのに、弁護士がきちんと理解することも難しい、という両面があるように思います。

そういう、人と人とのコミュニケーションという観点で、大切なことを教わったように思います。 私もこれからは、これまで以上に、きちんと人のお話を聞き、理解していく姿勢を大切にしていきたいと思います。

 

弁護士 髙橋俊彦

「沈黙法廷」法律監修!

WOWWOWで放映されている「沈黙法廷」というドラマの法律監修を担当いたしました。
もともと、本ドラマの原作について法律監修としてお付き合いをさせていただいたご縁で、ドラマ化も担当したという流れでした。
ドラマの内容は、私などが語るよりもぜひご覧いただきたいと思いますが、撮影に一部だけ同席して拝見しましたが、プロのみなさんの演技力に圧倒される思いでした。本当に素晴らしかったです。
さて、裁判員裁判が施行されて8年が経過いたしました。市民の間にもすっかり定着した感があり、そのような背景を受けて、裁判員裁判を題材にする小説やドラマも出てきているようです。小説やドラマでは、予測できなかった事態が生じてそれによる対応などが一つの山場になるようです。
ところが実際の法廷ではそのような場面はほとんどありません。
実際の裁判では、公判前整理手続という手続きにおいて相当程度の事実があらわれ、かつ証人尋問の時間についても予定がしっかりと組まれ、法廷がほぼ予定通りに行われています。
仕事や家事の合間を縫って裁判員として公判に参加される市民の負担を考えたとき、予定はきちんと組まれなければなりませんでしょうし、できる限りその予定に沿って進行していくことが望ましいでしょう。

 

でも、裁判ってそういうものでしょうか?
我が国の刑事訴訟法は「公判中心主義」という考え方に立っていると言われています。
この公判中心主義という考え方は、いろいろな意味を含むものですが、少なくとも公判前整理手続が肥大化して、その整理手続きで予定がしっかりと定められ、予定外のものは公判から排除する、ということを徹底しすぎれば、文字通り、公判はただの予定調和になってしまいます。
具体的には、個々の事件ごとによって異なりますが、我々は弁護人として、活き活きとした公判を行い、そこで裁判員・裁判官に正しい心証を得てもらうよう、取り組みを続けていかなければならないと考えています。
ドラマと現実、の両方を見ながら、その思いを新たにいたしました。

 

弁護士 髙橋俊彦

DNA型鑑定体験記

 5月9日(土)、鑑定科学技術センターにて、DNA型鑑定の実習を行ってきたので、その体験を報告します。

 

1 鑑定科学技術センターについて

 鑑定科学技術センター(http://www.kantei-bunseki.jp/#1)は、一般財団法人材料科学技術振興財団(MST)が2010年に新設した新事業です。同財団は、科学技術分野における新材料の研究等を行う、科学技術分野のエキスパートですが、その財団が、DNA型鑑定、薬物・毒物分析、指紋鑑定、筆跡鑑定等、市民生活により近い分野での研究評価技術の利用を目的の一つとして設立したセンターです。実際に、弁護士等からの依頼を受けて、さまざまな鑑定を実施し、事件の解決に貢献した事例もあるそうです。

 

2 DNA型鑑定とは

 さて、DNA型鑑定は、近年目覚ましい発展を遂げて、一般市民にも知られた技術になってきたと思います。刑事事件はもちろんのこと、親子鑑定など民事事件の分野でもDNA型鑑定が活躍しています。刑事事件についていえば、足利事件、東電OL事件、袴田事件など、最近話題となった再審事件で、DNA型鑑定が再審開始の決め手になったことは、記憶に新しいところです。

 私自身も、刑事事件を担当していて、DNA型鑑定に接する機会は多いです。しかし、DNA型鑑定とは、どのような作業をしているのか、どのようなメカニズムでDNA型が特定されるのか、実はよくわからない部分が多いことも事実です。以前、『Q&A 見てわかるDNA型鑑定』(現代人文社・2010年)という本の付録DVD作成に関わった際、DNA型鑑定の実習を見学させていただきました。ただ、自分自身の手でDNA型鑑定をやってみるという経験はなかったので、今回実習に参加できて、非常によい経験になりました。

 

3 実習

 実習は、私を含め6名で参加しました。担当していただいたのは、日本大学名誉教授の押田茂實先生と、お二人のセンタースタッフの方です。今回は、各自の血液を鑑定することにしました。まず、簡単な講義を受けて、それぞれの血液を採取し、いざ作業開始です。

 DNA型鑑定は、クリーンルーム内で行います。白衣を着て、帽子で髪を覆い、マスク・手袋を着用して入室します。DNA抽出作業の前に、ピペットの使い方を習いました。ピペットは、○○㎕というごく少量の液体を正確に吸い込むことができる道具ですが、この使い方をマスターすることが、鑑定に必須の技術です。

 そして、自分の血液からDNAを抽出する作業を実施しました。スタッフの指導を受けながら、手順に従って行いましたが、少しでも間違えるとうまくDNAが採れない、非常に繊細な作業でした。

 次に、DNAの定量作業を行いました。この後のPCR増幅をするのに、適度な量というのが決まっているので、その範囲に収まるようにDNA量を希釈する作業です。

 続いて、PCR増幅です。PCRとは、Polymerase Chain Reactionの略で、この技術を用いると、特定の増やしたい領域のDNAを増幅することができます。この技術が開発されたことで、DNA型鑑定が目覚ましい発展を遂げることとなりました。PCR増幅は、専用の機械を用いて、しばらく時間がかかります。その間、昼食休憩を取りました。

 PCR増幅が完了すると、シーケンサーという装置を使って、DNA型を解析し、判定します。解析が完了するまでしばらく休憩を経て、結果発表です。

 今回参加した6名とも、無事、DNA型鑑定に成功しました。スタッフの方が丁寧に指導してくれたおかげです。今回判明した私のDNA型は・・・秘密にしておきます。

 

4 実習を経て

 この度、初めてDNA型鑑定を体験することができて、非常に繊細な作業なのだということを改めて感じました。DNA型鑑定は機械的になされるものと思っている方もいるかもしれませんが、現実はそう甘くはありません。特にDNAの抽出作業には高い技術力が要求されます。今回は、直接採取した血液ですので、DNAが抽出しやすく、我々でもなんとか太刀打ちできました。しかし、事件現場に残された血痕や体液斑などでは到底うまくはいかないでしょう。技術が進歩した現在でもなお、鑑定人個人の高い技術力が要求されるのだということが実感できました。

 また、実習を経験して、DNA型鑑定の流れを具体的にイメージすることができました。刑事事件でDNA型鑑定を争う場合にも、実際に何をしているのかわからなければ、鑑定人に何を聞いたらいいのかもわかりません。今回の実習では、今後の弁護人活動においても非常に有意義な情報を得ることができました。改めて、押田教授とスタッフの皆様に感謝申し上げたいと思います。

 

(文責: 弁護士 贄田 健二郎)

氷見国賠訴訟 その1-氷見国賠訴訟とは!?-

コラム第1回は、当事務所の竹内と贄田が弁護団として加わっている、氷見国賠訴訟について、訴訟経過の報告も兼ねてお話しします。

 

1 氷見国賠訴訟とは

氷見国賠訴訟とは、氷見えん罪事件について、国と富山県、取調べを担当した警察官、検察官を相手取り、損害賠償を求めている国家賠償請求訴訟です。

 

2 氷見えん罪事件とは

氷見えん罪事件とは、ご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、平成14年に富山県氷見市で発生したえん罪事件です。

 

平成14年1月、そして3月に、富山県氷見市で強姦事件・強姦未遂事件が発生しました。両事件は同一犯の犯行と考えられていましたが、その後の捜査で被疑者として浮上してきたのが、今回原告となっている柳原さんです。

柳原さんは、厳しい取調べを受けて、やってもいない事件について,犯人だと認めさせられてしまいました。

そして、両事件で有罪となり、懲役3年の実刑判決を言い渡され、服役します。

2年余りの服役後、柳原さんは仮釈放されますが、平成18年に、真犯人が逮捕されました。真犯人は、平成14年1月と3月に発生した両事件の犯人であることを認め、裏付け証拠もあったため、柳原さんが無実であることが判明しました。

そこで、平成19年2月9日、富山地方検察庁が柳原さんの再審を請求し、同年10月10日、再審無罪判決が言い渡され、晴れて柳原さんの無実が確定しました。

これが氷見えん罪事件の経緯です。

 

柳原さんは、無実の罪で、2年以上も服役させられることになったのです。誠に許しがたい、国家の犯罪とも言うべき事態です。

 

3 なぜえん罪が発生したのか

なぜこのようなえん罪事件が発生してしまったのでしょうか。

当時の捜査資料を検討すると、数々の疑問点が浮上してきました。

そして、捜査機関による証拠の無視、見落としも明らかになってきました。

 

⑴ アリバイとなる通話履歴

まず、3月の事件が発生した直前に、自宅の固定電話から電話を掛けている記録が残っていました。

つまりアリバイ証拠です。

この証拠は柳原さんを逮捕する前に警察が差し押さえていたものでした。

 

⑵ サイズの異なる足跡

また、現場で採取された足跡の大きさは、柳原さんの靴のサイズより明らかに大きなものでした。

 

⑶ 見付からない証拠

さらに、被害者の言うような靴、足跡に合う靴が柳原さんの周辺をいくら探しても見付かりませんでした。

犯人が持っていたというサバイバルナイフやチェーンも見付かりませんでした。

 

⑷ 違法な起訴

他にも柳原さんが犯人でないことを示す多くの証拠がありました。

にもかかわらず、捜査機関はこれらの証拠を無視し、あるいは見落とした結果、柳原さんを起訴してしまったのです。

 

⑸ 8月事件の発生

そして、極めつけは、平成14年8月に、前の2件と手口が酷似する強姦事件が氷見市内で発生しました。そのとき柳原さんは拘置所にいましたから、絶対に犯人ではありえません。

このとき適正な捜査が行われていれば、柳原さんは刑務所に行かずに済んだはずです。それでも、捜査機関は柳原さんを釈放することをせず、刑務所に送り込んだのです。

 

⑹ 無実の人でも「自白」をする

「やっていないなら否認すればいいじゃないか」、そう思われる方もいるかもしれません。柳原さんも、最初はやっていないと否認していました。

しかし、取調官から厳しく追及され、やってもいない事件を,やったと認めさせられてしまうのです。

無実の人でも「自白」することがある、これは紛れもない事実です。他のえん罪事件の例を見ても明らかですし、心理学の専門家も誰にでも起こり得る心理状態だと言っています。

このように無実の人を事実と異なる「自白」に追い込んでしまう取調べこそ、えん罪発生の元凶であると言ってもよいでしょう。

 

4 国賠訴訟の状況

無実の柳原さんを服役させた責任は、明らかに国あるいは富山県にあります。

その責任を追及するために、私達は、平成21年5月14日、氷見国賠訴訟を富山地方裁判所に提起しました。

これまで21回の口頭弁論期日が開かれ、現在は、当時捜査に携わった警察官たちの証人尋問が行われています。

前回は、8月19日に開かれ、①当時被害者の下着の付着物の血液型鑑定を担当した科捜研技官、②当時の氷見署長、③富山県警本部刑事部捜査第一課長の尋問が行われました。

このように訴訟も大詰めを迎えています。

 

次回は、今年の10月21日に弁論期日が開かれます。

次はいよいよ原告である柳原さんの本人尋問です。当時の捜査、特に取調べの問題点について、本人に語ってもらう予定です。

この氷見えん罪事件については、他にもいろいろな問題点があります。国賠訴訟の経過も踏まえて、これからも定期的に報告したいと思います。

【文責:弁護士 贄田健二郎】