コラム

「沈黙法廷」法律監修!

WOWWOWで放映されている「沈黙法廷」というドラマの法律監修を担当いたしました。
もともと、本ドラマの原作について法律監修としてお付き合いをさせていただいたご縁で、ドラマ化も担当したという流れでした。
ドラマの内容は、私などが語るよりもぜひご覧いただきたいと思いますが、撮影に一部だけ同席して拝見しましたが、プロのみなさんの演技力に圧倒される思いでした。本当に素晴らしかったです。
さて、裁判員裁判が施行されて8年が経過いたしました。市民の間にもすっかり定着した感があり、そのような背景を受けて、裁判員裁判を題材にする小説やドラマも出てきているようです。小説やドラマでは、予測できなかった事態が生じてそれによる対応などが一つの山場になるようです。
ところが実際の法廷ではそのような場面はほとんどありません。
実際の裁判では、公判前整理手続という手続きにおいて相当程度の事実があらわれ、かつ証人尋問の時間についても予定がしっかりと組まれ、法廷がほぼ予定通りに行われています。
仕事や家事の合間を縫って裁判員として公判に参加される市民の負担を考えたとき、予定はきちんと組まれなければなりませんでしょうし、できる限りその予定に沿って進行していくことが望ましいでしょう。

 

でも、裁判ってそういうものでしょうか?
我が国の刑事訴訟法は「公判中心主義」という考え方に立っていると言われています。
この公判中心主義という考え方は、いろいろな意味を含むものですが、少なくとも公判前整理手続が肥大化して、その整理手続きで予定がしっかりと定められ、予定外のものは公判から排除する、ということを徹底しすぎれば、文字通り、公判はただの予定調和になってしまいます。
具体的には、個々の事件ごとによって異なりますが、我々は弁護人として、活き活きとした公判を行い、そこで裁判員・裁判官に正しい心証を得てもらうよう、取り組みを続けていかなければならないと考えています。
ドラマと現実、の両方を見ながら、その思いを新たにいたしました。

 

弁護士 髙橋俊彦

DNA型鑑定体験記

 5月9日(土)、鑑定科学技術センターにて、DNA型鑑定の実習を行ってきたので、その体験を報告します。

 

1 鑑定科学技術センターについて

 鑑定科学技術センター(http://www.kantei-bunseki.jp/#1)は、一般財団法人材料科学技術振興財団(MST)が2010年に新設した新事業です。同財団は、科学技術分野における新材料の研究等を行う、科学技術分野のエキスパートですが、その財団が、DNA型鑑定、薬物・毒物分析、指紋鑑定、筆跡鑑定等、市民生活により近い分野での研究評価技術の利用を目的の一つとして設立したセンターです。実際に、弁護士等からの依頼を受けて、さまざまな鑑定を実施し、事件の解決に貢献した事例もあるそうです。

 

2 DNA型鑑定とは

 さて、DNA型鑑定は、近年目覚ましい発展を遂げて、一般市民にも知られた技術になってきたと思います。刑事事件はもちろんのこと、親子鑑定など民事事件の分野でもDNA型鑑定が活躍しています。刑事事件についていえば、足利事件、東電OL事件、袴田事件など、最近話題となった再審事件で、DNA型鑑定が再審開始の決め手になったことは、記憶に新しいところです。

 私自身も、刑事事件を担当していて、DNA型鑑定に接する機会は多いです。しかし、DNA型鑑定とは、どのような作業をしているのか、どのようなメカニズムでDNA型が特定されるのか、実はよくわからない部分が多いことも事実です。以前、『Q&A 見てわかるDNA型鑑定』(現代人文社・2010年)という本の付録DVD作成に関わった際、DNA型鑑定の実習を見学させていただきました。ただ、自分自身の手でDNA型鑑定をやってみるという経験はなかったので、今回実習に参加できて、非常によい経験になりました。

 

3 実習

 実習は、私を含め6名で参加しました。担当していただいたのは、日本大学名誉教授の押田茂實先生と、お二人のセンタースタッフの方です。今回は、各自の血液を鑑定することにしました。まず、簡単な講義を受けて、それぞれの血液を採取し、いざ作業開始です。

 DNA型鑑定は、クリーンルーム内で行います。白衣を着て、帽子で髪を覆い、マスク・手袋を着用して入室します。DNA抽出作業の前に、ピペットの使い方を習いました。ピペットは、○○㎕というごく少量の液体を正確に吸い込むことができる道具ですが、この使い方をマスターすることが、鑑定に必須の技術です。

 そして、自分の血液からDNAを抽出する作業を実施しました。スタッフの指導を受けながら、手順に従って行いましたが、少しでも間違えるとうまくDNAが採れない、非常に繊細な作業でした。

 次に、DNAの定量作業を行いました。この後のPCR増幅をするのに、適度な量というのが決まっているので、その範囲に収まるようにDNA量を希釈する作業です。

 続いて、PCR増幅です。PCRとは、Polymerase Chain Reactionの略で、この技術を用いると、特定の増やしたい領域のDNAを増幅することができます。この技術が開発されたことで、DNA型鑑定が目覚ましい発展を遂げることとなりました。PCR増幅は、専用の機械を用いて、しばらく時間がかかります。その間、昼食休憩を取りました。

 PCR増幅が完了すると、シーケンサーという装置を使って、DNA型を解析し、判定します。解析が完了するまでしばらく休憩を経て、結果発表です。

 今回参加した6名とも、無事、DNA型鑑定に成功しました。スタッフの方が丁寧に指導してくれたおかげです。今回判明した私のDNA型は・・・秘密にしておきます。

 

4 実習を経て

 この度、初めてDNA型鑑定を体験することができて、非常に繊細な作業なのだということを改めて感じました。DNA型鑑定は機械的になされるものと思っている方もいるかもしれませんが、現実はそう甘くはありません。特にDNAの抽出作業には高い技術力が要求されます。今回は、直接採取した血液ですので、DNAが抽出しやすく、我々でもなんとか太刀打ちできました。しかし、事件現場に残された血痕や体液斑などでは到底うまくはいかないでしょう。技術が進歩した現在でもなお、鑑定人個人の高い技術力が要求されるのだということが実感できました。

 また、実習を経験して、DNA型鑑定の流れを具体的にイメージすることができました。刑事事件でDNA型鑑定を争う場合にも、実際に何をしているのかわからなければ、鑑定人に何を聞いたらいいのかもわかりません。今回の実習では、今後の弁護人活動においても非常に有意義な情報を得ることができました。改めて、押田教授とスタッフの皆様に感謝申し上げたいと思います。

 

(文責: 弁護士 贄田 健二郎)

氷見国賠訴訟 その1−氷見国賠訴訟とは!?−

コラム第1回は、当事務所の竹内と贄田が弁護団として加わっている、氷見国賠訴訟について、訴訟経過の報告も兼ねてお話しします。

 

1 氷見国賠訴訟とは

氷見国賠訴訟とは、氷見えん罪事件について、国と富山県、取調べを担当した警察官、検察官を相手取り、損害賠償を求めている国家賠償請求訴訟です。

 

2 氷見えん罪事件とは

氷見えん罪事件とは、ご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、平成14年に富山県氷見市で発生したえん罪事件です。

 

平成14年1月、そして3月に、富山県氷見市で強姦事件・強姦未遂事件が発生しました。両事件は同一犯の犯行と考えられていましたが、その後の捜査で被疑者として浮上してきたのが、今回原告となっている柳原さんです。

柳原さんは、厳しい取調べを受けて、やってもいない事件について,犯人だと認めさせられてしまいました。

そして、両事件で有罪となり、懲役3年の実刑判決を言い渡され、服役します。

2年余りの服役後、柳原さんは仮釈放されますが、平成18年に、真犯人が逮捕されました。真犯人は、平成14年1月と3月に発生した両事件の犯人であることを認め、裏付け証拠もあったため、柳原さんが無実であることが判明しました。

そこで、平成19年2月9日、富山地方検察庁が柳原さんの再審を請求し、同年10月10日、再審無罪判決が言い渡され、晴れて柳原さんの無実が確定しました。

これが氷見えん罪事件の経緯です。

 

柳原さんは、無実の罪で、2年以上も服役させられることになったのです。誠に許しがたい、国家の犯罪とも言うべき事態です。

 

3 なぜえん罪が発生したのか

なぜこのようなえん罪事件が発生してしまったのでしょうか。

当時の捜査資料を検討すると、数々の疑問点が浮上してきました。

そして、捜査機関による証拠の無視、見落としも明らかになってきました。

 

⑴ アリバイとなる通話履歴

まず、3月の事件が発生した直前に、自宅の固定電話から電話を掛けている記録が残っていました。

つまりアリバイ証拠です。

この証拠は柳原さんを逮捕する前に警察が差し押さえていたものでした。

 

⑵ サイズの異なる足跡

また、現場で採取された足跡の大きさは、柳原さんの靴のサイズより明らかに大きなものでした。

 

⑶ 見付からない証拠

さらに、被害者の言うような靴、足跡に合う靴が柳原さんの周辺をいくら探しても見付かりませんでした。

犯人が持っていたというサバイバルナイフやチェーンも見付かりませんでした。

 

⑷ 違法な起訴

他にも柳原さんが犯人でないことを示す多くの証拠がありました。

にもかかわらず、捜査機関はこれらの証拠を無視し、あるいは見落とした結果、柳原さんを起訴してしまったのです。

 

⑸ 8月事件の発生

そして、極めつけは、平成14年8月に、前の2件と手口が酷似する強姦事件が氷見市内で発生しました。そのとき柳原さんは拘置所にいましたから、絶対に犯人ではありえません。

このとき適正な捜査が行われていれば、柳原さんは刑務所に行かずに済んだはずです。それでも、捜査機関は柳原さんを釈放することをせず、刑務所に送り込んだのです。

 

⑹ 無実の人でも「自白」をする

「やっていないなら否認すればいいじゃないか」、そう思われる方もいるかもしれません。柳原さんも、最初はやっていないと否認していました。

しかし、取調官から厳しく追及され、やってもいない事件を,やったと認めさせられてしまうのです。

無実の人でも「自白」することがある、これは紛れもない事実です。他のえん罪事件の例を見ても明らかですし、心理学の専門家も誰にでも起こり得る心理状態だと言っています。

このように無実の人を事実と異なる「自白」に追い込んでしまう取調べこそ、えん罪発生の元凶であると言ってもよいでしょう。

 

4 国賠訴訟の状況

無実の柳原さんを服役させた責任は、明らかに国あるいは富山県にあります。

その責任を追及するために、私達は、平成21年5月14日、氷見国賠訴訟を富山地方裁判所に提起しました。

これまで21回の口頭弁論期日が開かれ、現在は、当時捜査に携わった警察官たちの証人尋問が行われています。

前回は、8月19日に開かれ、①当時被害者の下着の付着物の血液型鑑定を担当した科捜研技官、②当時の氷見署長、③富山県警本部刑事部捜査第一課長の尋問が行われました。

このように訴訟も大詰めを迎えています。

 

次回は、今年の10月21日に弁論期日が開かれます。

次はいよいよ原告である柳原さんの本人尋問です。当時の捜査、特に取調べの問題点について、本人に語ってもらう予定です。

この氷見えん罪事件については、他にもいろいろな問題点があります。国賠訴訟の経過も踏まえて、これからも定期的に報告したいと思います。

【文責:弁護士 贄田健二郎】