ニュースでも盛んに取り上げられていましたが、本年6月16日の参議院本会議において、性犯罪の厳罰化等を内容とする刑法の改正が成立し、今年7月中にも施行されることとされました。
刑事事件の弁護人としての活動を大きな柱の一つとしております当事務所にとっても、強い関心を持っているところです。
さて、多岐にわたる改正点のうち、本稿では「親告罪規定の廃止」について、少し述べてみたいと思います。
そもそも親告罪とはどういうことでしょうか。
簡単にいえば、告訴がなければ事件として扱わない、ということです。
強かん罪(改正後は「強制性交等罪」)は、これまでは被害者からの告訴がなければ、事件として扱わないルールとされていました。事件として扱うことになれば、その状況を少なくとも警察官や検察官には話をしなければならず、それを避けたいと考える気持ちを尊重する、という考えから「親告罪」とされてきました。しかし、それはいわゆる「泣き寝入り」を肯定することになるのではないか等の強い批判がなされ、今般の改正に至ったとされています。
刑事事件というものは、国が持っている刑罰権を行使することができるかどうか、という「人」と「国」との間の裁判です。その意味から「人」と「人」との間の裁判である民事事件とは本質的に異なるとされています(なお、国家賠償等の場合は「国」と「人」との裁判ではありますが、これは民事事件です。本稿のテーマから外れますのでこれ以上は述べません)。
その意味からは、被害者の意思によって刑事事件として扱うかどうかが決定されるということは、例外的な扱いでした。
それが、今回の改正によって廃止されることになったわけです。
さて、今回の改正は原則として遡及的に適用されるとされています。改正前の事件についてもさかのぼって適用されるということです。
その当否はさておき、どういうことなのかを紹介します。
改正法の附則2条は次のように定めています。
第二条 この法律の施行前にした行為の処罰については、なお従前の例による。 2 この法律による改正前の刑法(以下「旧法」という。)第百八十条又は第二百二十九条本文の規定により告訴がなければ公訴を提起することができないとされていた罪(旧法第二百二十四条の罪及び同条の罪を幇助する目的で犯した旧法第二百二十七条第一項の罪並びにこれらの罪の未遂罪を除く。)であってこの法律の施行前に犯したものについては、この法律の施行の際既に法律上告訴がされることがなくなっているものを除き、この法律の施行後は、告訴がなくても公訴を提起することができる。 (3項以下は略) |
まず1項で、法律施行前の事件についての処罰は、厳罰化される前の法定刑を基準として処罰されることが明らかにされています。
親告罪との関係では第2項以下が問題です。
「第百八十条又は第二百二十九条本文の規定により告訴がなければ公訴を提起することができないとされていた罪」とは、強制わいせつ罪、強姦罪、準強制わいせつ・準強姦、及び未成年者略取及び誘拐等の関係です。
これらについて、施行前に犯した事件については、原則として告訴がなくとも、起訴することができるとされています。
例外は「この法律の施行の際既に法律上告訴がされることがなくなっているもの」です。
これは公訴時効(強姦罪の場合は10年)が経過している事件や、一度なされた告訴が撤回(取消)された場合を指すことになります。
つまり、告訴される前に示談が成立してその結果、告訴はしないこととされたものについては、この例外には該当しないことになります(つまり、親告罪ではないことになる)。
では、昔の件について、示談等で解決したと思っていたのに事件化されるのだろうかという心配が生まれるかもしれません。でも、その心配は無用ではないかと考えています。
親告罪ではなくなったとしても、検察官が被害者の意思を無視して立件するということは、現実的には考えられないでしょう。法律上はまだ告訴することができるとしても、被害者が「もういい」と言っている事件について、検察官がわざわざ事件化することはしないだろうと考えられます。このことは、今回の改正法の詳細が審議された法制審議会で、当時最高検察庁の検事であった森悦子氏が「例えば被害者がもういいですと言って告訴しませんと言って不起訴になった事案につきまして,検察官の方がそれを新たに掘り起こして,被害者の意思に関係なく起訴してしまうというようなことはまずないと思っていただいていいと思います。」と発言されています。
(参考:http://www.moj.go.jp/content/001183733.txt)
もちろん示談の状況によっては、あらためて事件化されるということが絶対ないとは言い切れません。
もし、そのような場合は、早い段階でご相談いただければと存じます。
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