氷見国賠訴訟 その1−氷見国賠訴訟とは!?−
コラム第1回は、当事務所の竹内と贄田が弁護団として加わっている、氷見国賠訴訟について、訴訟経過の報告も兼ねてお話しします。
1 氷見国賠訴訟とは
氷見国賠訴訟とは、氷見えん罪事件について、国と富山県、取調べを担当した警察官、検察官を相手取り、損害賠償を求めている国家賠償請求訴訟です。
2 氷見えん罪事件とは
氷見えん罪事件とは、ご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、平成14年に富山県氷見市で発生したえん罪事件です。
平成14年1月、そして3月に、富山県氷見市で強姦事件・強姦未遂事件が発生しました。両事件は同一犯の犯行と考えられていましたが、その後の捜査で被疑者として浮上してきたのが、今回原告となっている柳原さんです。
柳原さんは、厳しい取調べを受けて、やってもいない事件について,犯人だと認めさせられてしまいました。
そして、両事件で有罪となり、懲役3年の実刑判決を言い渡され、服役します。
2年余りの服役後、柳原さんは仮釈放されますが、平成18年に、真犯人が逮捕されました。真犯人は、平成14年1月と3月に発生した両事件の犯人であることを認め、裏付け証拠もあったため、柳原さんが無実であることが判明しました。
そこで、平成19年2月9日、富山地方検察庁が柳原さんの再審を請求し、同年10月10日、再審無罪判決が言い渡され、晴れて柳原さんの無実が確定しました。
これが氷見えん罪事件の経緯です。
柳原さんは、無実の罪で、2年以上も服役させられることになったのです。誠に許しがたい、国家の犯罪とも言うべき事態です。
3 なぜえん罪が発生したのか
なぜこのようなえん罪事件が発生してしまったのでしょうか。
当時の捜査資料を検討すると、数々の疑問点が浮上してきました。
そして、捜査機関による証拠の無視、見落としも明らかになってきました。
⑴ アリバイとなる通話履歴
まず、3月の事件が発生した直前に、自宅の固定電話から電話を掛けている記録が残っていました。
つまりアリバイ証拠です。
この証拠は柳原さんを逮捕する前に警察が差し押さえていたものでした。
⑵ サイズの異なる足跡
また、現場で採取された足跡の大きさは、柳原さんの靴のサイズより明らかに大きなものでした。
⑶ 見付からない証拠
さらに、被害者の言うような靴、足跡に合う靴が柳原さんの周辺をいくら探しても見付かりませんでした。
犯人が持っていたというサバイバルナイフやチェーンも見付かりませんでした。
⑷ 違法な起訴
他にも柳原さんが犯人でないことを示す多くの証拠がありました。
にもかかわらず、捜査機関はこれらの証拠を無視し、あるいは見落とした結果、柳原さんを起訴してしまったのです。
⑸ 8月事件の発生
そして、極めつけは、平成14年8月に、前の2件と手口が酷似する強姦事件が氷見市内で発生しました。そのとき柳原さんは拘置所にいましたから、絶対に犯人ではありえません。
このとき適正な捜査が行われていれば、柳原さんは刑務所に行かずに済んだはずです。それでも、捜査機関は柳原さんを釈放することをせず、刑務所に送り込んだのです。
⑹ 無実の人でも「自白」をする
「やっていないなら否認すればいいじゃないか」、そう思われる方もいるかもしれません。柳原さんも、最初はやっていないと否認していました。
しかし、取調官から厳しく追及され、やってもいない事件を,やったと認めさせられてしまうのです。
無実の人でも「自白」することがある、これは紛れもない事実です。他のえん罪事件の例を見ても明らかですし、心理学の専門家も誰にでも起こり得る心理状態だと言っています。
このように無実の人を事実と異なる「自白」に追い込んでしまう取調べこそ、えん罪発生の元凶であると言ってもよいでしょう。
4 国賠訴訟の状況
無実の柳原さんを服役させた責任は、明らかに国あるいは富山県にあります。
その責任を追及するために、私達は、平成21年5月14日、氷見国賠訴訟を富山地方裁判所に提起しました。
これまで21回の口頭弁論期日が開かれ、現在は、当時捜査に携わった警察官たちの証人尋問が行われています。
前回は、8月19日に開かれ、①当時被害者の下着の付着物の血液型鑑定を担当した科捜研技官、②当時の氷見署長、③富山県警本部刑事部捜査第一課長の尋問が行われました。
このように訴訟も大詰めを迎えています。
次回は、今年の10月21日に弁論期日が開かれます。
次はいよいよ原告である柳原さんの本人尋問です。当時の捜査、特に取調べの問題点について、本人に語ってもらう予定です。
この氷見えん罪事件については、他にもいろいろな問題点があります。国賠訴訟の経過も踏まえて、これからも定期的に報告したいと思います。
【文責:弁護士 贄田健二郎】