非免責債権となった生活保護法63条返還債権の範囲について
世間一般ではあまり話題になっていませんでしたが、平成30年10月1日施行された改正生活保護法により、生活保護法63条に基づく保護費の返還債権(以下ここでは「63条債権」といいます。)が破産をしても免責の対象とならない非免責債権となりました。以前は不正受給の場合の返還債権(法78条)についてのみ非免責債権とされていた(同条4項)のですが、対象が広がった形です。改正の前後を通じて破産申立事件を受任していた依頼者の方に、債務の中にこの63条債権が含まれる方がいたために気になって調べましたので、備忘も兼ねてコラムにしました。なお、この改正についてはこれ以外にも様々な批判があり、日本弁護士連合会や各単位会から反対意見が出ていたところでしたので、詳しく知りたい方はそちら(例えば日弁連のもの:https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2018/opinion_180502.pdf)をご覧いただければと思います。
63条債権が非免責債権となったのは、生活保護法77条の2第2項がこれを「国税徴収の例により徴収することができる」と規定したためです(破産法253条1項1号)。そして、これについては経過措置が定められており、附則4条において「生活保護法第77条の2の規定は、この法律の施行の日以後に都道府県又は市町村の長が支弁した保護に要する費用に係る徴収金の徴収について適用する」とされています。当たり前と言えば当たり前ですが、要するに、非免責債権となるのは改正法施行後に支給された保護費についての63条債権だけだということですね。私はこの部分が気になって条文を調べました。
ちなみに、生活保護法77条の2には例外として「(徴収することが適当でないときとして厚生労働省令で定めるときを除く)」という括弧書きが置かれており、形式的には63条債権に該当するとしてもこの場合には強制徴収ができないものとされています。この「厚生労働省令で定めるとき」について具体的には同法施行規則22条の3に定められており、保護費が「保護の実施機関の責めに帰すべき事由によつて」支給されて63条債権が生じた場合であるとされています。
今後は、依頼者の方への説明はもちろん、例えば過払い金がそれなりに回収できた場合において63条債権が発生しているのであれば破産申立前にその弁済に充てるといったように、対応も変えていかなければならないことがわかりました。
弁護士 船戸暖
第六十三条 被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
第七十七条の二 急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けた者があるとき(徴収することが適当でないときとして厚生労働省令で定めるときを除く。)は、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村の長は、第六十三条の保護の実施機関の定める額の全部又は一部をその者から徴収することができる。
2 前項の規定による徴収金は、この法律に別段の定めがある場合を除き、国税徴収の例により徴収することができる。