コラム

非免責債権となった生活保護法63条返還債権の範囲について

世間一般ではあまり話題になっていませんでしたが、平成30年10月1日施行された改正生活保護法により、生活保護法63条に基づく保護費の返還債権(以下ここでは「63条債権」といいます。)が破産をしても免責の対象とならない非免責債権となりました。以前は不正受給の場合の返還債権(法78条)についてのみ非免責債権とされていた(同条4項)のですが、対象が広がった形です。改正の前後を通じて破産申立事件を受任していた依頼者の方に、債務の中にこの63条債権が含まれる方がいたために気になって調べましたので、備忘も兼ねてコラムにしました。なお、この改正についてはこれ以外にも様々な批判があり、日本弁護士連合会や各単位会から反対意見が出ていたところでしたので、詳しく知りたい方はそちら(例えば日弁連のもの:https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2018/opinion_180502.pdf)をご覧いただければと思います。

 63条債権が非免責債権となったのは、生活保護法77条の2第2項がこれを「国税徴収の例により徴収することができる」と規定したためです(破産法253条1項1号)。そして、これについては経過措置が定められており、附則4条において「生活保護法第77条の2の規定は、この法律の施行の日以後に都道府県又は市町村の長が支弁した保護に要する費用に係る徴収金の徴収について適用する」とされています。当たり前と言えば当たり前ですが、要するに、非免責債権となるのは改正法施行後に支給された保護費についての63条債権だけだということですね。私はこの部分が気になって条文を調べました。

 ちなみに、生活保護法77条の2には例外として「(徴収することが適当でないときとして厚生労働省令で定めるときを除く)」という括弧書きが置かれており、形式的には63条債権に該当するとしてもこの場合には強制徴収ができないものとされています。この「厚生労働省令で定めるとき」について具体的には同法施行規則22条の3に定められており、保護費が「保護の実施機関の責めに帰すべき事由によつて」支給されて63条債権が生じた場合であるとされています。

 今後は、依頼者の方への説明はもちろん、例えば過払い金がそれなりに回収できた場合において63条債権が発生しているのであれば破産申立前にその弁済に充てるといったように、対応も変えていかなければならないことがわかりました。

弁護士 船戸暖

科捜研における鑑定の現状

文責:贄田健二郎

1 先月20日、乳腺手術直後に手術を執刀した外科医が患者にわいせつ行為を行ったとされて起訴された事案で、東京地裁で無罪判決が言い渡されたという報道に接しました。この事件については、麻酔覚醒時の術後せん妄による幻覚の可能性が主張されるなどして、そちらも大きな争点になっていました。そしてもう1つ、警視庁の科学捜査研究所(科捜研)が実施したDNA型鑑定の信用性が主たる争点となっていました。

  私も、平成29年に、科捜研の鑑定の信用性が争点となった事案で無罪判決を獲得しており、今回の事件と同様の問題があったので、その点についてコメントしたいと思います。

2 先月20日の無罪判決によると、本件のDNA型鑑定には、科捜研の研究員が鑑定の最中に記入するワークシートに、鉛筆で書き込みを行い、内容を修正する時は消しゴムで消して書き直していたこと、鑑定の推移に従ってワークシートを記載していないことがあったのではないかと疑われること、DNAの抽出液の残余を廃棄したこと、などの問題があり、検査者としての誠実さに疑念がある、とまで言及されたそうです。抽出液の残余を廃棄したそうですから、あとから再鑑定をすることもできません。鑑定が正しいかどうか検証するには、どのような手法で鑑定が行われ、その過程でどのような結果が出たのか、逐一検証していくしかありません。そのための資料としては、鑑定の様子をビデオ撮影でもしない限り、ワークシートくらいしかありません。それならば、ワークシートには改ざんできないように消せない筆記用具で記載すべきでしょう。なのに、ワークシートには鉛筆で記載し、あとから消しゴムで消して書き直した様子があったようです。科学者としてあるまじき態度でしょう。

  私が担当した事例でも、同様の問題がありました。平成29年10月31日に東京地裁立川支部で無罪となった覚せい剤取締法違反被告事件です。この事件では、DNA型鑑定ではなく、覚せい剤使用を立証するための尿鑑定の信用性が争われました。被告人は、すり替えや取り違えの可能性を主張したところ、この事件では、採尿手続時に容器に入れられた液体の量と、鑑定時の液体の量に、無視できない分量の差がありました。検察官は、科捜研に持ち込まれるまでの間にこぼれたのだと主張し、科捜研の研究員が作成したメモには「こぼれている」との記載がありました。ところが、このメモも鉛筆で書かれており、一度消して書き直した跡がありました。他にもいくつかこのメモには問題がありましたが、書き直した跡があったこともこのメモあるいはそれに基づく研究員の証言の信用性を否定する要素となりました。

3 先月27日、日弁連で開催された「本邦におけるDNA型鑑定の原理と科学的問題について」という研修に参加しました。講演した法医学者の先生が、先月20日の無罪判決にも触れて、ワークシートの問題にも言及していました。その中で、「科学実験において実験ノートの鉛筆書きはタブー」と指摘されていました。「東京大学大学院医学系研究科・研究ガイドライン(実験系)」(https://www.m.u-tokyo.ac.jp/education/guideline.pdf)にも、「実験ノートの作成上の注意」として、「記載はペンやボールペンなど消せないものを使用する(鉛筆は不可)」とはっきり書いてあります。講演した先生も、学生にまず最初に教えることだ、とおっしゃっていました。本件の科捜研の研究員は、学生が守っていることすら守っていない、ということです。

  科学の本質は、再現性があることです。後の検証に耐えうるものでなければなりません。鑑定の経過を記載するワークシートは、どのような鑑定が行われたか、あとから検証するために保存すべき資料です。そのワークシートが、鉛筆で書かれ、あとから書き直すこともできる状態であるなら、鑑定の検証などできません。今回問題となった科捜研研究員が行ったことは、もはや科学的鑑定ではない、といってもいいでしょう。

  これが、科捜研の鑑定の現状です。二度とえん罪が発生しないよう、科捜研の改革は急務であるといえます。

以上

依存症回復支援施設アルバ

先日、「アルバ」という依存症回復支援施設の見学に行ってきました。株式会社ヒューマンアルバ(http://human-alba.com/)が運営している施設です。NPOなどではなく株式会社という形態をとっているのが特徴的ですね。

 依存症と一口にいってもアルコールや覚せい剤依存というような物質系の依存、ギャンブルや買い物依存といった非物質系の依存などと色々ありますが、アルバでは基本的には種類に関係なく広く依存症について扱っています。ただし、31年1月現在では諸事情により、依存の対象自体が犯罪行為となる場合(典型的には覚せい剤使用)については受け入れをしていないとのことでした。

 提供サービスについて詳しくはHPなどをご覧いただければと思いますが、依存症回復のための専門的プログラムはもちろん、住居支援や社会復帰のための教育・就労支援も行っていました。一つ大きな特徴であると感じたのは、住居支援です。依存症回復施設で多いパターンは寮を提供するというものですが、アルバでは住居を借りる際の連帯保証人になる、アルバが住居を借り上げるなどの方法により、施設の近くに単身生活できる場所を確保するそうです。集団生活に強いストレスを感じる方もいらっしゃるので、単身生活を前提とした選択があるのは大きいです。

 刑事、民事、家事といった事件の種類に関係なく依存症に悩む方にお会いする機会は多いので、選択肢の一つとして是非お勧めしたいと思いました。

弁護士 船戸 暖

弁護人が取調べに立ち会う権利について

先日、「EU諸国における取調べの可視化と弁護人の立会い」というセミナーに参加してきました。

取調べへの弁護人の立ち合いについては、最近、日産のカルロス・ゴーン氏が逮捕された事件に関連して、フランスの新聞社などが日本でこれが認められていないことを批判する報道をしたことから話題になっていました。

 

日本では、逮捕・勾留されている場合はもちろん、そうではない、いわゆる在宅事件の場合でも弁護人が取調べに立ち会うことはできません。これは法律で禁止されているということではなく、警察・検察が絶対に応じないということです。

 

これに対し、EU加盟国では、国ごとに具体的な仕組みは異なっていますが、EU指令により弁護人の取調べ立会いに関する法律が整備されています。もう少し詳しく説明すると、EU指令が直接定めているのは弁護人の援助を受ける権利を保障する法整備なのですが、先行する欧州人権裁判所の判例により、弁護士の援助を受ける権利には弁護人が取調べに立ち会う権利が含まれると解釈されており、その結果としてEU各国で弁護人が取調べに立ち会う権利が認められるようになったということです。なお、同様の権利はアメリカや、お隣韓国、台湾でも認められています。

 

日本でも憲法上の権利として弁護人の援助を受ける権利や黙秘権を保障していますが、これまで判例上弁護人が取調べに立ち会う権利が認められたことはありません。弁護士会としても日本政府に繰り返し立法を求めていますが、今のところ実現するに至っていません。

今の日本の刑事司法の仕組みでは、被疑者を逮捕から20日間以上も拘束することができ、その間ずっと取調べを行うことができます。被疑者には黙秘権が認められていますが、取調べを受けること自体を拒否することはできず、取調べには一人で臨まなければなりません。これで黙秘権を含む被疑者の権利が十分に保障されていると言えるのでしょうか。

 

ゴーン氏の事件はこのような日本の現状が世界の批判にさらされたという意味で良い機会であったと思います。しかし、現在のところ立法により被疑者に弁護人の取調立会権が実現する見込みはないと言わざるを得ません。EUにおいてもそうだったように、こういうときこそ少数者の権利を守る裁判所の出番だと思います。裁判所が一言、憲法上被疑者には弁護人を取調べに立ち会わせる権利が認められる、と判断してくれれば良いのです。これまでの最高裁判所を見るにあまり期待はできませんが、刑事弁護に携わる弁護士として、今後も取調べに対する弁護人立会権実現に向けた活動を続けていきたいと思います。

 

弁護士 船戸 暖

ゴーン氏の収容先について

ゴーン氏が逮捕・勾留されていることは大きなニュースになっています。

ここでは、逮捕された彼が東京拘置所に収容されていることについて、少しだけ触れたいと思います。

 

現在の日本では、一般的に逮捕された場合は警察署に収容されています。そのような扱いから考えると、例外的な扱いをしているように思われるかもしれません。

でも、外国に目を向けた場合、むしろこの日本の扱いこそ、例外的です。

 

「代用監獄」という言葉があります。

 

逮捕・勾留されている間、捜査官による取り調べが実施されます。警察に収容するということは、取り調べをする側の手元に収容するということを意味します。

いわば「取り調べ放題」ということになってしまいます。

 

これはいかにもおかしいのではないか。

さらに言えば、逮捕・勾留という制度自体、取り調べのための制度ではありません。

それなのに警察署に収容するということはおかしなことであると言わなければなりません。

 

興味を持たれた方は、東京弁護士会のホームページにわかりやすいまとめがありますので、そちらもご覧ください。

代用監獄Q&A

https://www.toben.or.jp/know/iinkai/keiji/qa/

 

弁護士 髙橋 俊彦

吉澤ひとみさんの執行猶予判決について思うこと

先日、元モーニング娘。の吉澤ひとみさんに対する事件の判決が下されました。

懲役2年、執行猶予5年ということです。

この事件の弁護人は私や当事務所の弁護士が担当していません。ですからあくまでも外野として思うところを書きます。

 

ニュースについているコメント欄を読みますと、「軽すぎるのでは?」という声が多いようです。

法律家としては、そういう声に対して真摯に受け止める必要があると思う一方で、「果たしてそうかな?」ということも思ったりします。

 

懲役2年というのは、刑務所に入って懲役刑を2年間務めなければならないという刑罰です。それの執行を猶予するという判決です。つまり執行猶予というのは、定められた期間内に(今回では5年)、また犯罪を犯すようなことがなければ刑務所にいかなくて済むけれども、また犯してしまった場合には、執行猶予は取り消される場合があり、そのときには取り消しの原因となった犯罪について言い渡される刑に加えて、今回の執行猶予分(つまり懲役2年)についても服役をしなければならなくなるという制度です。

執行猶予というのは、何年間猶予するのか、という猶予期間を定めなければなりません。裏を返せば、「また犯罪を犯したら取り消されるかも?」という思いを抱きながら生活しなければならない期間、ということになります。その意味では、猶予期間が長ければ長いほど、重い判決であるという見方になります。

そして法律では最長期間として5年とされています。

つまり、吉澤さんに対する判決は、執行猶予にされる場合にはもっとも重い部類であると、裁判所が考えたということになります。

 

刑罰はどのように考えて決めるのか、というテーマであらためてコラムを書きたいと思っていますので、詳しくはそこに譲りますが、執行猶予にするかどうか、をどう考えるかについて少し書いてみます。

 

刑罰はそもそも「報い」としての側面(応報)と、二度と犯さないための更生(教育)という側面があると言われています。

ですから、執行猶予にするかどうかについても、この両面から考えていくことになります。

 

まさに不幸中の幸いですが、吉澤さんの事件では被害者の方の傷害は重篤なものではなかったようです。亡くなってしまっていた場合に比べて、その報いは重く評価されるべきではないでしょう。

ですから、刑務所に送るほどの報いを与えるまでは必要がないのではないか?という考えが働きます。

 

でも、どうやら飲酒運転をしていたようです。そうであれば、過失による事故であったとしても、その過失は重たいものであると評価されるでしょう。この点は、報いとして重いものを与えるべきではないかという方向で考えられるでしょう。芸能界を引退したということは、社会的に大きな報いを受けたということがいえると考えます。そうであれば、さらに刑罰によって与えるべき報いも多少軽くしてもよい、そう考えることもあるでしょう。

 

では、教育という面ではどうでしょうか。本人がこの事件についてどう思っているのか、ということが重要です。教育を受ける側のレベルがどの程度かによって、教育の内容も変わってくることは普通の教育と変わりがありません。

 

また、周りの環境はどうでしょうか。所属していた芸能事務所の社長が嘆願書のようなものを提出したという報道がありました。そういう再出発に向けた支えがあるかどうか、それも重要なポイントです。

 

 

冒頭にお断りしたとおり、私や当事務所の弁護士は弁護人ではありません。したがって事件の詳しい情報はありません。ただ、報道されている限り、弁護人としては、そのようなことをきちんと法廷に出して裁判所の評価を受けたのではないでしょうか。

 

刑事事件の弁護人の業務は、決して法廷の中だけに限るものではありません。

依頼者である被告人が、どうしたら再出発ができるだろうか、二度と罪を犯さないためにどうしたらよいのだろうか、ということを考え、かつ道筋をつけていくことも重要な仕事です。

もちろん、この観点は「実際に罪を犯してしまった場合」についてであることは当然です。罪を犯していないにも関わらず、被告人とされてしまった場合(えん罪事件)とは違います。

 

我々、立川フォートレス法律事務所の弁護士は皆、このような刑事事件に情熱を傾けてきましたし、今後もそのつもりです。

 

どうぞお気軽にご相談いただければと思います。

 

弁護士 髙橋 俊彦

顧問弁護士の仕事とは

弁護士が日常的にご相談に対応できます

日常的に生じる問題について気軽に相談していただける関係を持った弁護士をそばに置きたい、というご要望に応じるための方法が、顧問弁護士です。

会社やお店を経営されている場合、弁護士に相談しようと思われることはどういうことがあるでしょうか。

わざわざ弁護士に相談するということになると、費用もかかるし、それなりの案件じゃないともったいないんじゃないか等とお考えになるかもしれません。

一から会社のことを説明するのも大変だし、手間がかかる等とお考えになるかもしれません。

そういったハードルをなくすために顧問弁護士という存在があるとご理解いただければと存じます。

我々弁護士が相談に対応する際、前提として「どういう仕事をしている会社なんだろうか」、「相談をされる方の人となりはどういうものなのだろうか」、という情報を気にします。問題解決のためにどういう方法をとるべきかを模索する際に、このような情報が有益だからです。

相談される方も、問題の前提としてこのような情報が関係しますから、我々弁護士に理解してもらいたいと思われることが多いように思います。その点を理解することが、対応をより的確に相談できるとお考えになるでしょう。

そのような関係性を弁護士との間で、あらかじめ築いておくことにより、より的確に、より気軽に相談をすることができるようになるのです。

 

顧問弁護士を雇うためにはどうすればよいのか

まず、顧問契約を結んでいただきます。

顧問契約の内容は、毎月一定額をお支払いいただく代わりに、日常的な問題についての相談に相談料なしで対応することが基本です。もし、案件をご依頼いただく場合には、顧問関係のない依頼者の方に比べて弁護士費用を安価に設定することもいたします。

当事務所では顧問料について次のとおりお願いしています。

 法人・個人事業者の場合  月額5万円から(消費税込54,000円)

個人の場合        応相談(法人・個人事業者に比べ低額)

なお、顧問料を実際に定める場合には、業務量や規模に応じご相談に応じており、基準より減額させていただくこともあります。

 

顧問弁護士は何をしてくれるのか

基本は法律問題についての相談です。もちろん「法律問題かどうか」について判断がつかない場合でも、ご相談ください。その上で弁護士が回答できることかどうかも含め、対応させていただきます。

また、契約書のチェックも必要に応じていたします。

具体的な案件をご依頼いただく場合には顧問料とは別に費用をいただきますが、顧問契約を結んでいない方に比べ、一定額の減額をいたします。

 

最後に

弁護士をしておりますと、「もっと早い段階で相談していただければこれほどの問題にならなかっただろう」と思うことが多いです。

早い段階で相談できなかったのは、いろいろな原因があるでしょうが、その多くは、「身近に気軽に相談できる弁護士がいない」という点にあるのではないかと私どもは考えています。

我々は、皆さんの身近な弁護士でありたいと願っています。

気軽に相談できる存在でありたいと願っています。

どうぞ、お気軽にお声がけください。

 

なお、立川法人会に所属されている法人・事業者の方については、「6ヶ月間顧問料無料」で顧問契約を結ぶサービスを開始いたしました。

 

「実践!意思決定支援−本人主体の権利擁護を目指して−」に参加して

本年2月2日、弁護士会多摩支部主催のイベント「実践!意思決定支援−本人主体の権利擁護を目指して−」に参加してまいりました。

 

感想としては、他人の意思決定をきちんと聞き、そしてそれを推測していくことの難しさ、大切さ、でした。シンポのテーマとしては成年後見等の業務の関連です。

ですが、この「難しさ」と「大切さ」は、他の事件でも共通するということを強く感じました。

そもそも人が人に気持ちや考えを伝えることは難しいものです。

まして、弁護士に相談しようとお考えになる、そんな局面で、正しく自分の気持ちをお伝えいただくのは、なかなか難しいと思われるのです。

もちろん、正しく伝えていただいているのに、弁護士がきちんと理解することも難しい、という両面があるように思います。

そういう、人と人とのコミュニケーションという観点で、大切なことを教わったように思います。 私もこれからは、これまで以上に、きちんと人のお話を聞き、理解していく姿勢を大切にしていきたいと思います。

 

弁護士 髙橋俊彦

「沈黙法廷」法律監修!

WOWWOWで放映されている「沈黙法廷」というドラマの法律監修を担当いたしました。
もともと、本ドラマの原作について法律監修としてお付き合いをさせていただいたご縁で、ドラマ化も担当したという流れでした。
ドラマの内容は、私などが語るよりもぜひご覧いただきたいと思いますが、撮影に一部だけ同席して拝見しましたが、プロのみなさんの演技力に圧倒される思いでした。本当に素晴らしかったです。
さて、裁判員裁判が施行されて8年が経過いたしました。市民の間にもすっかり定着した感があり、そのような背景を受けて、裁判員裁判を題材にする小説やドラマも出てきているようです。小説やドラマでは、予測できなかった事態が生じてそれによる対応などが一つの山場になるようです。
ところが実際の法廷ではそのような場面はほとんどありません。
実際の裁判では、公判前整理手続という手続きにおいて相当程度の事実があらわれ、かつ証人尋問の時間についても予定がしっかりと組まれ、法廷がほぼ予定通りに行われています。
仕事や家事の合間を縫って裁判員として公判に参加される市民の負担を考えたとき、予定はきちんと組まれなければなりませんでしょうし、できる限りその予定に沿って進行していくことが望ましいでしょう。

 

でも、裁判ってそういうものでしょうか?
我が国の刑事訴訟法は「公判中心主義」という考え方に立っていると言われています。
この公判中心主義という考え方は、いろいろな意味を含むものですが、少なくとも公判前整理手続が肥大化して、その整理手続きで予定がしっかりと定められ、予定外のものは公判から排除する、ということを徹底しすぎれば、文字通り、公判はただの予定調和になってしまいます。
具体的には、個々の事件ごとによって異なりますが、我々は弁護人として、活き活きとした公判を行い、そこで裁判員・裁判官に正しい心証を得てもらうよう、取り組みを続けていかなければならないと考えています。
ドラマと現実、の両方を見ながら、その思いを新たにいたしました。

 

弁護士 髙橋俊彦

DNA型鑑定体験記

 5月9日(土)、鑑定科学技術センターにて、DNA型鑑定の実習を行ってきたので、その体験を報告します。

 

1 鑑定科学技術センターについて

 鑑定科学技術センター(http://www.kantei-bunseki.jp/#1)は、一般財団法人材料科学技術振興財団(MST)が2010年に新設した新事業です。同財団は、科学技術分野における新材料の研究等を行う、科学技術分野のエキスパートですが、その財団が、DNA型鑑定、薬物・毒物分析、指紋鑑定、筆跡鑑定等、市民生活により近い分野での研究評価技術の利用を目的の一つとして設立したセンターです。実際に、弁護士等からの依頼を受けて、さまざまな鑑定を実施し、事件の解決に貢献した事例もあるそうです。

 

2 DNA型鑑定とは

 さて、DNA型鑑定は、近年目覚ましい発展を遂げて、一般市民にも知られた技術になってきたと思います。刑事事件はもちろんのこと、親子鑑定など民事事件の分野でもDNA型鑑定が活躍しています。刑事事件についていえば、足利事件、東電OL事件、袴田事件など、最近話題となった再審事件で、DNA型鑑定が再審開始の決め手になったことは、記憶に新しいところです。

 私自身も、刑事事件を担当していて、DNA型鑑定に接する機会は多いです。しかし、DNA型鑑定とは、どのような作業をしているのか、どのようなメカニズムでDNA型が特定されるのか、実はよくわからない部分が多いことも事実です。以前、『Q&A 見てわかるDNA型鑑定』(現代人文社・2010年)という本の付録DVD作成に関わった際、DNA型鑑定の実習を見学させていただきました。ただ、自分自身の手でDNA型鑑定をやってみるという経験はなかったので、今回実習に参加できて、非常によい経験になりました。

 

3 実習

 実習は、私を含め6名で参加しました。担当していただいたのは、日本大学名誉教授の押田茂實先生と、お二人のセンタースタッフの方です。今回は、各自の血液を鑑定することにしました。まず、簡単な講義を受けて、それぞれの血液を採取し、いざ作業開始です。

 DNA型鑑定は、クリーンルーム内で行います。白衣を着て、帽子で髪を覆い、マスク・手袋を着用して入室します。DNA抽出作業の前に、ピペットの使い方を習いました。ピペットは、○○㎕というごく少量の液体を正確に吸い込むことができる道具ですが、この使い方をマスターすることが、鑑定に必須の技術です。

 そして、自分の血液からDNAを抽出する作業を実施しました。スタッフの指導を受けながら、手順に従って行いましたが、少しでも間違えるとうまくDNAが採れない、非常に繊細な作業でした。

 次に、DNAの定量作業を行いました。この後のPCR増幅をするのに、適度な量というのが決まっているので、その範囲に収まるようにDNA量を希釈する作業です。

 続いて、PCR増幅です。PCRとは、Polymerase Chain Reactionの略で、この技術を用いると、特定の増やしたい領域のDNAを増幅することができます。この技術が開発されたことで、DNA型鑑定が目覚ましい発展を遂げることとなりました。PCR増幅は、専用の機械を用いて、しばらく時間がかかります。その間、昼食休憩を取りました。

 PCR増幅が完了すると、シーケンサーという装置を使って、DNA型を解析し、判定します。解析が完了するまでしばらく休憩を経て、結果発表です。

 今回参加した6名とも、無事、DNA型鑑定に成功しました。スタッフの方が丁寧に指導してくれたおかげです。今回判明した私のDNA型は・・・秘密にしておきます。

 

4 実習を経て

 この度、初めてDNA型鑑定を体験することができて、非常に繊細な作業なのだということを改めて感じました。DNA型鑑定は機械的になされるものと思っている方もいるかもしれませんが、現実はそう甘くはありません。特にDNAの抽出作業には高い技術力が要求されます。今回は、直接採取した血液ですので、DNAが抽出しやすく、我々でもなんとか太刀打ちできました。しかし、事件現場に残された血痕や体液斑などでは到底うまくはいかないでしょう。技術が進歩した現在でもなお、鑑定人個人の高い技術力が要求されるのだということが実感できました。

 また、実習を経験して、DNA型鑑定の流れを具体的にイメージすることができました。刑事事件でDNA型鑑定を争う場合にも、実際に何をしているのかわからなければ、鑑定人に何を聞いたらいいのかもわかりません。今回の実習では、今後の弁護人活動においても非常に有意義な情報を得ることができました。改めて、押田教授とスタッフの皆様に感謝申し上げたいと思います。

 

(文責: 弁護士 贄田 健二郎)